M&Aの進め方の中で、「独占交渉権をいつ付与するか」は結果に影響しやすい論点です。
独占交渉権は、相手側の検討を前に進めるうえで役立つ一方、タイミング次第では、売手側の選択肢が減り、条件交渉が難しくなる場面もあります。
本記事では、独占交渉権の考え方と、付与のタイミングを決めるための実務ポイントを整理します。
独占交渉権とは何か
独占交渉権とは、一定期間、特定の相手と優先的に協議を進める状態を指します。
相手側にとっては、デューデリジェンスや社内稟議を進める前提が立ち、検討の確度が上がりやすくなります。
売手側にとっても、交渉相手を絞ることで進行管理がしやすくなり、スケジュールを短縮できることがあります。
一方で、独占状態に入ると、比較材料や代替案を持ちにくくなるため、条件面の調整局面では注意が必要です。
独占交渉権を「早い段階で付与」すると起きやすいこと
独占を早い段階で付与すると、次のようなことが起きやすくなります。
- 条件交渉で主導権を持ちにくくなる
- デューデリジェンス後に条件の再調整が必要になった場合、別の選択肢を取りにくい
- 相手側の対応がゆっくりになり、スケジュールが延びることがある
もちろん案件によっては早期の独占が有効な場合もありますが、「早く独占に入るほど安心」という単純な話ではない点は押さえておくべきです。
独占交渉権を付与するタイミングは「独占に入る前に、どこまで論点を整理できているか」で決まります
独占交渉権を付与するタイミングは、独占に入る前に、どこまで論点を整理できているかで決まります。ここが十分でないまま独占に入ると、後工程で認識差が表面化し、条件の調整が大きくなりがちです。
実務上は、少なくとも次の点が一定程度見えてからの方が、進行が安定しやすいです。
- 価格レンジ(想定の上下)
- 主要条件(スキーム、役員体制、雇用、運営の考え方など)
- 進め方(デューデリジェンスの範囲、スケジュール、重要論点)
「基本合意=独占」が当然とは限らない
初めてM&Aを経験されるオーナーの方ほど、「基本合意の段階で独占交渉権を付与するのが当たり前」と受け止めがちです。
実際、実務では、進行管理の観点から基本合意と同時に独占に入る進め方が選ばれることも多くあります。
ただし、これはあくまで“進めやすさ”の観点で選ばれている面もあり、案件によっては、売手側の選択肢や比較材料をどの程度残すべきかを含めて検討の余地があります。
要するに、「基本合意を結んだら当然に独占」という固定観念ではなく、目的(スピード・確度・条件の安定性)に応じて、独占のタイミングを決めるのが望ましい、ということです。
独占に入るなら、ここだけは事前に決めておく
独占交渉権を付与する場合、付与そのものよりも、事前にどこまで決めておくかが重要です。
① 期間は短く、明確にする
独占期間が長いと、交渉の途中で状況が変わったときに売手側の打ち手が減ります。
期間は短めに区切り、必要なら延長条件を明確にしておくと、進行が締まります。
② 解除条件(例外)を言葉にしておく
スケジュールが守られない、重要条件が大きく変わる、合意した前提が崩れるなど、解除条件を事前に共有しておくと、後工程での停滞を避けやすくなります。
③ 重要論点は独占前に先に整理する
価格の考え方、運営体制、雇用、表明保証など、後から難しくなる論点は、独占に入る前に整理しておく方が安全です。
「独占に入ってから詰める」より、「独占前に認識を揃える」が基本です。
まとめ
独占交渉権は、M&Aを前に進めるための有効な手段です。
ただし、付与のタイミングが早すぎると、売手側の選択肢が減り、条件交渉が難しくなる場面があります。
重要なのは、
- 独占に入る前に何を整理するか
- 独占に入るなら、期間や解除条件をどう決めるか
を案件ごとに決めることです。