買手によって提示条件が大きく割れる御話では、オークションが有効です。 足元の数字よりも、新規事業の立ち上がりや今後の成長設計が評価の中心になる場合、買手の見立て次第で価格も条件も大きく変わります。例えば、足元の実績だけでは伸びしろが見えにくい一方で、立ち上がり始めた新規事業や構造改革が評価の中心になるケースでは、買手の仮説(シナジー・投資余力・成長の見立て)によって、提示条件が大きく割れます。 こうした局面では、相対交渉で1社の見立てに依存するより、オークションで比較環境を作る方が、条件を引き上げやすく、意思決定も進めやすいことがあります。
ここでは、1次入札の時点で提示レンジが大きく割れた御話を例に、「何を設計すると結果が変わるのか」を整理します。
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ポイント
- 評価が割れやすい御話ほど、相対交渉よりも「比較環境」を作った方が、条件が整いやすいことがあります。
- 1次入札で終わりではなく、DDと最終提示で結果が逆転することがあります。
- 勝負を分けるのは、候補先設計と情報開示の順番、および比較のルール設計です。
前提(匿名化)
対象は、将来の成長余地が大きい新規事業を抱える一方、既存事業による過去の実績からは好評価を得ることは難しい企業でした。 買手側の新規事業領域の成長余地に対する見立てやシナジー仮説、投資方針などにより、評価が大きく変わり得る状況でした。
この前提では、相対交渉を選択すると、提示条件が「その1社の見立て」に依存しやすくなります。 そこで、厳格な情報統制を前提に、クローズド・オークションで比較環境を作る方針を採用しました。
何が起きたか(プロセスの流れ)
進め方の骨子は以下です(細部は一般化しています)。
- 少しでも高い評価をしてくれそうな候補先を選定し、NDA締結後に情報開示
- 1次入札で、提示レンジが大きく割れる
- 1次入札では1社に絞らず、DDは複数社が実施。その後、最終入札へ
- DD後の最終提示で、条件が上積みされ、結果が逆転(1次入札では1番札でなかった企業が最高条件を提示)
なぜ評価が割れたのか
評価が割れる主因は、将来計画の置き方と、買手側の仮説の違いです。 過去の延長だけで見れば保守的になりやすい一方、将来の成長をどう織り込むかで上振れの見立てが生まれます。
このタイプの御話では、買手によって「見える価値」が変わるため、候補先設計の巧拙が結果を左右しやすくなります。 したがって、最初から「1社の見立て」に依存しない比較環境を作ることに実務上の意味があります。
売手側で効いた設計(フェーズ0)
うまく進めるために重要だったのは、着手前に「何を比較し、どの順番で意思決定するか」を設計しておくことです。 ここが曖昧だと、提示条件が割れたときに判断が止まりやすくなります。
- 候補先設計:評価が上振れし得る買手のタイプを含め、過不足のない候補群にする
- 開示設計:何をどの段階で出すかを決め、DDで初めて出る論点を減らす
- 比較ルール:提出物、期限、質問の扱いを揃え、比較可能な形で提示を受ける
- 運用:Q&Aと面談を交通整理し、情報統制とスピードを両立させる
最終段階まで競争環境を維持
1次入札は、買手が開示情報の範囲で作る「暫定の条件提示」です。 したがって、1次入札時点の提示レンジが割れていても、それ自体は不自然ではありません。
本事例では、1次入札の段階で「競争優位の源泉(評価が上振れしうる理由)」を示しつつ、 具体の裏付けはDDで段階的に開示する方針を取りました。 これにより、買手は仮説を持って検討を進めながら、追加情報で見立てを更新できる状態になります。
さらに重要なのは、1次入札後も複数社をDDに参加させ、競争環境を最後まで残した点です。 買手側に「この条件では勝ち切れない」という現実認識が生まれると、トップの意思決定も動きやすくなります。 結果として、最終入札で価格や条件が上振れしやすい設計になります。
事業承継を検討される企業オーナー様が押さえておきたい実務ポイント
- 評価が大きく割れそうな御話では、相対交渉よりも比較環境が有利に働くことがある
- 候補先設計は「やみ雲に社数を増やす」ことではなく、「高く評価してくれるであろう相手を・属性の違いなどバリエーションをもって(事業会社とファンド双方を候補に入れるとか、複数の業界企業を跨いで候補先企業を選定するなど)とすることが重要
- 1次入札で評価が割れたときに判断が止まらないよう、比較軸と意思決定の順番を事前に決めておく
- DDは、最終提示と最終契約交渉につながる論点整理の場であり、運用ルールが成否を左右する