M&A(会社売却)が初めてのオーナーにとって、基本合意(LOI)後に始まるDD(デューデリジェンス)は、想像以上に負担が大きくなりやすい工程です。DDが始まってから「こんなに工数がかかるとは思わなかった」と感じ、ストレスが増えるケースも少なくありません。
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事業承継M&Aの進め方・支援内容、状況整理からの相談窓口は以下です。
DDが「壁」になりやすい理由
情報共有範囲を広げにくい
オーナー企業では、情報漏えい、社内不安、離職などの観点から、関係者を増やしたくないのが自然です。一方で、人数が少ないほどDD対応が特定の人に集中し、通常業務と両立しにくくなります。
資料が揃っていないだけでなく、存在しないこともある。加えて、実務の細部は現場の特定担当者しか把握していないことがある
日常業務で作っていない資料は、DDで初めて求められます。さらに、運用の例外対応、実態の判断基準、暗黙の前提など、実務の細かな内容が、経営側や限られた関係者では把握しきれず、現場の特定担当者だけが知っているケースもあります。
この状況では資料提出だけでなく、ヒアリングによる補完が増え、負担が膨らみやすくなります。
買手側は専門家が分業し、確認範囲が細部まで及びやすい
買手側は会計、税務、法務、人事、ITなどで役割分担して確認します。その結果、質問は多くなり、かつ細部まで及ぶ傾向があります。
重要なのは重要度で分類するだけではありません。重要度が低そうに見える質問でも、意思決定に資する確認なのか、確認範囲が必要以上に広がっていないかを見立て、必要に応じて統合や範囲調整を行うことが、売手側の負担を守るうえで効きます。
少人数で回すための段取りと交通整理
DDを現実的に進める鍵は、資料の多寡よりも運用設計です。特に情報共有範囲を広げたくない場合は、経験のあるアドバイザーや仲介者が整理役となり、交通整理を担うことで負担が大きく下がります。
・質問の受け口を一本化し、窓口を統一する
・質問を分類し、優先順位と回答期限を現実的に設計する
・質問数、提出頻度、追加質問の出し方をルール化する
・重複や論点のズレを見極め、質問を統合・整理する
・インタビューの回数、参加者、事前質問の出し方を設計する
・口頭回答の記録化、Q&A整形を支援する
・資料が存在しない領域は、代替手段で補完する道筋を作る
オーナーは意思決定と重要論点に集中し、日々の調整と交通整理は整理役が担う。この分担が、少人数で回す前提では現実的です。
最小限の情報共有範囲で進める体制の作り方
各領域の担当者を揃えるのが理想でも、現実には難しいことがあります。そこで、役職別ではなく論点別に、少人数で回す設計にします。
・オーナー、または右腕:意思決定、経営実態の説明
・経理に強い人:試算表、資金繰り、主要勘定の説明
・現場を知る人:顧客、仕入、品質、クレームなど実態の説明(必要な範囲で)
・整理役(アドバイザー、仲介者):質問整理、運用ルール設計、資料補完設計、記録化支援
ポイントは、人数を増やす代わりに、質問の入口を整え、回答を整えて提出する仕組みを作ることです。
質問とQ&Aの交通整理(量だけでなく必要性も整える)
DDが重くなる大きな要因は、質問が無制限に増えることです。初期に運用ルールを決めるだけで、負担の増え方が変わります。
・質問は所定フォーマットで提出(メールや口頭の乱立を避ける)
・質問は週2回など、提出タイミングをまとめる(毎日増える状態を避ける)
・追加質問は「前提」「目的」「必要な判断」を添えて提出してもらう
・重複質問は統合し、担当者への直接連絡は避ける
・回答期限は論点別に合意(財務、契約、人事などで現実的に)
・インタビューは目的を明確化し、回数と参加者を絞る
買手側専門家は、傾向として細部まで確認したがる場面があります。合理的な場合もありますが、売手側の負担が過度になると、DDの目的(適切な意思決定)から外れやすくなります。
整理役が価値を出しやすいのは、次の観点で質問を整理できる点です。
・この質問は、意思決定や価格・条件に影響する論点か
・同趣旨の質問が分解されているだけではないか(統合できないか)
・代替資料や限定開示で足りないか
・確認範囲が必要以上に広がっていないか(合理的な必要性が薄くないか)
資料が揃わない・現場しか把握していない場合の補完策
DDでは「この資料をください」と言われても、そもそも存在しないことがあります。また、資料はあっても、運用の実態や例外対応が現場の特定担当者しか把握していないことがあります。こうした場合は、ゼロから作成して疲弊する前に、順番を決めて対応します。
・会議資料、過去の提案資料、取引条件表、受発注データ
・固定資産台帳、保全記録、購買履歴
・クレーム記録、品質記録、監査記録
形式が違っても、論点を満たせるなら前に進みます。
資料がない領域や、現場担当者しか把握していない領域は、インタビューで実態を補完します。ただし、情報共有範囲が狭いほど、インタビューが増えると負担が急増します。
・インタビューはテーマ別にまとめ、回数を減らす
・参加者は必要最小限にする(買手側も同様)
・事前質問を出してもらい、当日は確認中心にする
・追加質問は次回にまとめ、当日の延長を避ける
記録化とQ&A整形の負担を減らす(テクノロジー活用)
口頭で答えるほど、後から整合性確認が重くなります。いまは、記録化とQ&A整形を以前より軽くできます。
・インタビューを録音し、文字起こしを作る
・文字起こしを要点化し、Q&A形式に整理する
・売手(オーナー側)は確認と修正に集中する
・買手側専門家に質問の背景と目的を添えたうえで、回答案(たたき台)を作ってもらう
・売手側は事実関係を確認し、修正して確定する
終盤で負担を増やさない締め方
終盤は「追加でこれも、あれも」が増えがちです。未解決論点を整理し、終わらせ方を合意します。
・追加で必要な論点を一覧化する
・必須と任意を分ける
・いつまでに、誰が、どう決めるかを明確にする
・最終契約に影響する論点を優先する
まとめ
DDは、初めてのオーナーが想像する以上に重い局面になりえます。ただし、情報共有範囲を最小限にしたい前提のもとでも、整理役の交通整理と運用ルールによって、現実的に進めることが可能です。
・質問の入口を統一し、提出頻度と形式を決める
・質問の重複やズレを整理し、必要性の薄い確認を増やしすぎない
・資料が揃わない、現場しか把握していない領域は、代替資料とインタビューで補完する
・記録化とQ&A整形は、テクノロジーと運用で負担を減らす
(注)本記事は一般的な情報提供であり、法務・税務などの個別判断は専門家へご相談ください。