はじめに
M&Aや事業承継を検討する際、「特定の相手と進めるべきか」「複数候補と並行して進めるべきか」で悩む場面は多いと思います。
相対交渉とオークション(競争環境を作る進め方)には、それぞれメリット・留意点があり、案件特性によって最適解は変わります。
本記事では、実務で迷いやすいポイントを整理し、判断の軸を提示します。
相対交渉とは
相対交渉とは、特定の1社(または少数)と個別に協議を進める方法です。
メリット
- 情報管理がしやすい
- 意思決定が速く、スケジュールを短縮しやすい
- 経営側の負担が比較的軽い
留意点
- 比較対象が少ないため、条件交渉で主導権を握りにくい場合がある
- 交渉終盤で条件が動いたときに、代替案を持ちにくい
オークションプロセスとは
オークションプロセスとは、複数の候補先に同時に打診し、比較可能な環境を作った上で条件提示を受ける進め方です。
なお、情報管理の観点から候補先を限定する「クローズド形式」で設計されることも一般的です。
メリット
- 条件や評価が市場競争の中で形成されやすい
- 比較材料を持てるため、交渉力を維持しやすい
- 候補先の本気度や進め方の差が見えやすい
留意点
- 進行管理や情報管理の難易度が上がる
- 経営側の負担が増える
- 事前準備が不十分だと、後工程で条件が揺れやすい
判断のための3つの軸
どちらが適切かを判断する際は、少なくとも次の3点を確認すると整理が進みます。
① 評価が候補先によって割れそうか
候補先との親和性や統合後の成長シナリオによって評価が大きく変わり得る案件では、比較可能な状況を作る意義が高まります。
② スピードを優先すべきか
時間的制約が強い場合は、相対交渉が現実的なケースがあります。
ただし、スピードを優先するほど「比較材料の欠如」という別の論点が出るため、どこまで急ぐべきかは分解して検討する必要があります。
③ 情報管理の難易度(レピュテーションリスク)
取引先や従業員への影響を考慮し、情報管理を最優先する場合は、クローズド形式で候補先を絞る設計が適します。
独占交渉権の扱いが結果を左右する
実務では、一定段階で独占交渉権を付与する進め方が選択されることがあります。
独占交渉には合理性がある一方で、付与のタイミングが早すぎると、交渉終盤における売手側の交渉余地が小さくなる場合があります。
重要なのは、次のような順序で設計することです。
- 主要論点(スキーム、価格レンジ、条件)を一定程度整理する
- 比較材料を持った状態で交渉を進める
- 独占に入る場合も、条件や期間の設計を行う
プロセス設計で交渉力が変わる(実務で多い進め方と、設計で変えられるポイント)
実務では、仲介会社等が関与し、初期段階で複数候補との協議を並行しつつ、基本合意の段階で一社に絞る進め方が広く採用されています。
この方法は、進行管理の観点で合理性があり、一定の競争環境を作れるという点でもメリットがあります。
一方で、基本合意後に交渉相手が一社に限定されると、条件調整局面で比較材料が乏しくなり、結果として売手側の交渉余地が小さくなる場合もあります。
案件によっては、
- 比較可能な状況を一定期間維持する
- 条件整理を進めた上で交渉相手を絞る
- 交渉終盤まで売手側の選択肢を残す
といったプロセス設計が有効になることがあります。
結局のところ、重要なのは「どの方式が正しいか」ではなく、案件の目的と制約に合わせてプロセスを設計することです。
よくある失敗パターン
- 候補先を広げすぎ、情報管理が破綻する
- 事前準備が弱く、後工程で条件が大きく揺れる
- 比較対象がないまま進み、妥当性判断が難しくなる
- 独占交渉のタイミングが早く、交渉余地が小さくなる
まとめ
相対交渉とオークションに優劣はなく、案件特性と目的に応じた設計が重要です。
M&A・事業承継の進め方で迷う点があれば、お気軽にご相談ください。