後継者不在が課題となっている会社では、事業承継について考えなければならないと分かっていても、何から整理すべきかが分かりにくいことがあります。
最近では、M&A仲介会社からのDMや提案をきっかけに、「売却という選択肢もあるのか」と初めて具体的に意識するオーナーも少なくありません。ただ、その時点で直ちに結論を出す必要があるわけではありません。
最初に必要なのは、「売るか、売らないか」を決めることではなく、どの論点を、どの順番で整理するかを明確にすることです。本記事では、後継者がいない会社のオーナーが、事業承継の最初に何を考えるべきかを順を追って整理します。
最初に決めるのは「結論」ではなく「整理の順番」
後継者がいない会社では、「売却するしかないのか」と考えることもあれば、「今はまだ動かずに様子を見たい」と感じることもあります。もっとも、最初の段階で必要なのは、そのどちらかを断定することではありません。
まず整理したいのは、次の3点です。
- どれくらいの時間的余裕があるのか
- 何を優先して残したいのか
- どの承継方法が現実的な選択肢として残るのか
この順番を飛ばして、いきなり相手探しや価格の話に入ると、後から前提を見直すことになりやすくなります。
まず確認したいのは「時間的余裕」と「不意の変化への備え」
事業承継で最初に整理したいのは、残された時間です。オーナー自身はまだ元気で、すぐに何かが起きるわけではないと感じていても、実際には状況は思ったより急に変わることがあります。
オーナーの健康面、主要幹部の退職、主要取引先の動向、金融環境の変化、景気や相場の大きな変動など、外部環境も含めて、会社を取り巻く前提は短期間で変わりえます。平時には先送りできていた論点が、何かのきっかけで一気に現実味を帯びることもあります。
したがって、「後継者がいない」という事実そのもの以上に重要なのは、どれくらいの時間的余裕があるのか、そして不意の変化があっても選択肢を残せる状態にあるか、という点です。ここが曖昧なままだと、準備に時間をかけるべき場面なのか、早めに方向性だけでも固めておくべき場面なのかが見えにくくなります。
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その次は「何を優先して残したいか」
オーナーごとに重視する点・優先順位は異なります。譲渡価格を重視する場合もあれば、従業員の雇用維持、取引先との関係、社名や拠点の維持を重視する場合もあります。
ここを曖昧にしたまま進めると、後で相手選びや条件交渉の基準が定まりません。最初の段階で、少なくとも次のような点は整理しておきたいところです。
- 事業の継続と会社(法人格)の存続をどこまで重視するか
- 従業員の雇用維持をどこまで重視するか
- 取引先との関係をどう引き継ぎたいか
- 社名や拠点の維持をどこまで望むか
- 譲渡価格をどの程度重視するか
- オーナー自身が承継後にどこまで関与するか
事業承継は、単に株式を移転する話でも、単に会社を売る話でもありません。何を優先する承継にしたいのかを整理しておくことで、後の判断がしやすくなります。
承継方法は「事業・経営の承継」と「株式の承継」を分けて考える
事業承継を考える際は、事業や経営の承継と、株式や資本の承継を分けて考える必要があります。この2つは一体で解決する場合もありますが、必ずしも同じではありません。
社内の役員や幹部社員が事業や経営を引き継げる状態にあっても、株式の承継まで同時に解決できるとは限りません。株式取得資金、金融機関対応、個人保証の整理など、資本面の論点が別途残ることがあります。
逆に、資本の承継先は見つかっても、承継後の経営を担える内部人材がいるのか、それとも買手側で経営人材の手当てが必要なのかが曖昧なままだと、承継後の運営体制に不安が残ります。
このため、最初の整理では、親族内承継、役員・従業員への承継、第三者承継(M&A)という選択肢を並べるだけでなく、事業・経営を誰が担うのかと株式・資本を誰が引き受けるのかを分けて確認することが重要です。
関連ページ:「事業承継の進め方」を整理しています。
「会社を売るべきか」より先に、確認しておきたいこと
オーナーが早い段階で確認しておきたいのは、会社の強みそのものだけではありません。どの承継方法を取るとしても、先に確認しておいた方がよい主な論点には下記のようなものがあります。
- オーナーに帰属した属人性がどの程度強いか
- 主要取引先や主要担当者への依存が強すぎないか
- 売上や利益の推移に大きな変動がないか
- 借入、個人保証、担保の状況はどうか
- オーナーと会社との取引に整理が必要なものがないか
- 不要資産や事業に直接関係しない資産があるか
- 月次試算表、契約関係、組織図など基本資料を整理できる状態か
特に、オーナー自身に営業、人脈、技術判断、資金繰り判断が集中している場合には、承継の難易度が大きく変わります。また、オーナーと会社との貸借、役員報酬、資産賃貸借などの取引は、後で整理論点になりやすいため、早めに把握しておきたいところです。
動き出しは、一度で結論まで進め切るものとは限らない
事業承継や売却の検討では、「一度動き始めたら後戻りできない」と感じることがあります。しかし、実務では必ずしもそうではありません。
実際には、一度プロセスを進めてみたものの、買手候補が現れない、条件が想定ほどではない、タイミングが合わないなどの理由で、いったん中止し、一定期間を経て改めて検討を再開するケースは少なくありません。
したがって、最初の着手は、直ちに最終判断を意味するものではありません。むしろ、情報を集め、選択肢を比較し、今進めるべきか、少し時間を置くべきかを見極めるためのプロセスと捉えることもできるのです。
関連ページ:「一般的なプロセスやスケジュール感」を整理しています。
整理や準備が十分でなくても、相談しながら進めればよい
事業承継では、「万全な準備・選択肢が固まってから相談しよう」と考えがちです。ただ、最初の段階では、何を整理し・どう準備すべきか自体が分からないことも多く、そこがハードルになることがあります。
最初から完璧に整理・準備されている必要も、選択肢が固まっている必要もありません。後継者不在の状態で何が論点になるのか、どの選択肢から考えるべきか、一社の提案だけで進めてよいのかといった点も含めて、相談しながら順に整理していけばいいんです。
関連ページ:進め方や条件の整理を第三者視点で確認したい場合、気軽に、ご活用ください。
まとめ
後継者がいない会社で、最初に必要なのは、「売るか、売らないか」を直ちに決めることではありません。まず整理したいのは、時間的余裕、不意の変化への備え、優先したい条件、そしてどの承継方法が現実的な選択肢になるのか、です。
その際には、事業・経営の承継と株式・資本の承継を分けて考え、属人性、取引先依存、個人保証、オーナーと会社との取引など、後で論点になりやすい項目を先に把握しておくことが重要です。
また、事業承継や売却の検討は、一度始めたら必ず最後まで進めるものとも限りません。いったん検討し、見送り、改めてタイミングを見て再開するという方策もあります。
事業承継は、結論を急ぐほど良いとは限りません。一方で、何も整理しないまま時間を過ごすと、選択肢が狭くなることがあります。だからこそ、オーナー一人で抱え込まず、相談しながら論点を整理し、必要な準備を進めていくことが重要です。
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